5年先のラブストーリー-この世のしるし-


「ああ、はっきりと覚えているよ」


「あなたが教室を間違って入って来ておきながら“そこ俺の席”って譲ろうともしなかったのよね」


「そうだったかな」


二人はその方向から見える四季折々の景色が好きだった。


「あれっ、はっきり覚えてるんじゃなかったの?」


「嫌な事は忘れる主義でして」


(クスッ)


「なんだよ」


「ううん、全然変わらないなぁ」


「ふん、どうせ成長してないよ」


「でもあの時、あなたが私のカバンにつまずき、ペリドットの石(8月の誕生石)が転がっていなければ二人はどうなっていたのかなぁ」


「考えなくて良い事は考えない」


「だよね」


「バーカ」


二人の仲睦まじい会話は楽しく続いた。


ところが話していく内に会話は急転し、恵子は真剣な面持ちになった。
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