5年先のラブストーリー-この世のしるし-
「あなたに留年までさせたスタートだった」
「それは成績が悪かったから」
「本当に嬉しかったんだよ」
「だ・か・ら・・・」
「1年の療養生活、それから3年生を一緒に過ごせ、あなたからいっぱい大切なものを教わった。だから病気にも負けず生きて来れた」
「・・・・・」
「就職先も決まってこれからだって言う時に・・・」
「何を言っているんだ」
その時、直樹はかつてない激しい口調で恵子に言い放った。
「考えなくていい事は考えなくていいと言っただろ」
「・・・・・」
「二度と口にしたら承知しないからな!」
そんな大声を出した直樹に直子は膨れっ面になった。
「ううー」
「ごめん、ごめん」
「直子、お母さんが悪いのよ」
「直子は俺達の子供として立派に育っている」
「うん、子供を生むのは絶対に無理だと言われていた体だったけど・・・
“この命を奪う権利が誰にあるんだ”と、あの時のあなたの強い言葉は今でも私の心の中にあります」
この時、恵子の気持ちは・・・そして直樹の気持ちには・・・いずれ来よう、深い悲しみに・・・互いが・・・分かっていた。
そして、恵子は直樹と歩んで来た、その日々全てを語り始めた。