5年先のラブストーリー-この世のしるし-

「先生ありがとうございました」

直樹がその一言を言うと松田のトーンは少し下がった。


「やはり分かっていたのですね。あなた方二人をこうして長年見て来ましたが改めて自分が医者である前に人間である大切さを身に沁みて教えられます」

「恵子の元気な振る舞いを無にさせたくなかっただけです」

「全てを受け止める覚悟が出来ているようですね」

『失っていけないものは失ってはいけない』

「恵子さんには・・・」

直樹の鋭い眼光に松田は何も言えなかった。

「恵子の命は後どれくらいですか」

直樹は小声で言った。

「このままでは今年いっぱい持つかどうか、しかし・・・」

松田のためらいに直樹は全く動じなかった。

「今、恵子の気持ちを受け止めなかったら、一生後悔し続けるだけです」

「工藤さん、何があなたをそこまで強くさせるんですか」


「強くなんかありませんこれで家族三人が一つなれるのなら、心に何の迷いもないだけです」


松田に医者である前に人間である事を決意させた直樹は、移植の日、その日を確認して病院を後にした。
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