みかん白書~描きかけの私の描きかけの恋~
つい好奇心で紙袋を受け取ってもうて、中身を取り出してみると、それはまだタグがついたまんまの新品のブラジャーやった。
「一葉、自分のこと“FtM”かもしれんとか言ってたけんど、いつか付けるつもりで買うちょったんやと思うったい」
「そっか……」
コレじゃあ男の各務くんが持っとっても、何の役にも立たへんわなぁ。
「マンガとかCDなんかなら簡単に処分できるとやけど、身につける洋服はなぁ……」
「………」
「たぶんこれから先、なにがツライって、着るヒトのおらん一葉の洋服を見るんが、かなりツライと思うったい……でも一葉の洋服はみんな男モノみたいなヤツばっかやし、よっちゃんに形見分けしても大丈夫そうなんは、未使用のソレくらいしかなかったとぉ……」
そんときウチは“そーいうものなんや……”と思った。
家族の中から死人を出したことのないウチには分からへんことやったけど、残された家族にしてみれば、おらんようになった家族の着ていた服を見るんが、そないにもツライことなんやとウチはじめて知った。
妹を失った各務くんの立場になって考えてみたら、ウチが意固地(いこじ)になって形見を受け取らんなんて言うてる場合ちゃうってことに気がついた。