契約の恋愛
第1章

約束のない記憶

"契約"しましょう

あの時、あなたはそう言った。
彷徨い続ける私を、なだめるかのように。

とうとう梅雨時に入ってしまった6月。昨日も雨、今日も雨。明日もどうせ雨でしょう?
行き交う人達は、それぞれ違う傘をさしている。

水玉、黄色、チェック、青
……いっぱい。

人がいっぱいいる所で、傘をさすのは嫌い。

ゴツゴツ当たってうっとういから。

現に今、私は傘をささず車道の隅で座り込んでいる。
制服も、靴も、顔も、茶色の髪も、みんなずぶ濡れ。みっともない位。

行き交う人々は、そんな私を好奇な目で見ている。

中には、汚いものを見るような視線を向けてくる人達もいる。

うつろな瞳で、走っていく車を見つめる。
雨で視界がふさがれてぼやけて見える。けれど、確かにそこに在るもの。

…今から、車道に飛び出したら、璃雨はどうなるかな
車に勢いよく吹っ飛ばされて、地面に顔をぶつけて、静かに眠りに落ちてくのかな。
< 1 / 236 >

この作品をシェア

pagetop