契約の恋愛
そして、陸飛は今まで誰にも弱みを見せずに生きてきた。

友達を思うが故の、悩みや苦しみを溜め込み笑顔で耐えぬいてきた。

少しの横から聞こえてきた物音に、かすかに顔を向ける。

陸飛の顔には、擦り傷やあざがひときわ目立っている。

「…亮也。」

乾いた声で、大切な友の名を呼ぶ。

返事がなくとも、友はいつも自分のそばにいた。

近くにいてくれた。

でも……。

「…亮也…。」

かすかに声が震えていく。
…もうやめな。

そんな言葉を何回、この数日彼にかけてきただろう。
陸飛の視線の先には、血まみれの男の胸ぐらを掴む、恐ろしく冷めた顔をした亮也が映っていた。

髪は乱れ、息も上がっている。

血まみれの男は、かすかにうめき声を上げ助けを陸飛に求めていた。

それでも陸飛は動かない。
動く気力さえなかった。

ただ、親友の名を呼び続けて数日を過ごしてきた。

俺にはどうする事もできない。
そんな無力さが、陸飛の光を少しずつ奪っていた。
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