契約の恋愛
未来を拒む理由は、億劫ながら"あの人"との記憶が原因だったんだ。

璃雨の未来に、"あの人"はもういない事実を受け止めたくなかったから。

だから、受け止める前に死んでしまいたかったんだ。
璃雨の口元は、次第に口角を上げていた。

自分の事なのに、きづけなかった。

バカみたい。

理由なんて、最初からあったんだ。

ただ理由を知らないフリしてただけで。

璃雨には、きちんと死にたい理由があったんだ。

逃げ場なんて、もうどこにもないと思い知らされる。
もう一度、璃雨の感情は振り出しに戻った。

「…紀琉。」

《…ん?》

紀琉の優しい声が、耳元で響く。
璃雨は、無表情で窓の外を見つめた。

月もなく、星もない真っ暗な空。

まるで、璃雨の心のような。

しばらくの沈黙の後、璃雨はおもむろに立ち上がった。

「今週の土曜、空いてる?」
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