契約の恋愛
作ったような貼りつけたような笑顔で、トーンを上げた。

《…え?》

突然の璃雨の変貌と、変えられた話題にさすがの紀琉も唖然としているにちがいない。

そんな事、何も気にせずに璃雨はコップをキッチンに運びながら喋る。

「何かね…雪葉が紀琉を見たいって言ってるんだ。だから、今週の土曜にダブルデートしたいって。」

《……》

「紀琉!聞いてる?」

受話器越しの紀琉は、だんまりのままだったので璃雨は、柄に似合わず急かした。
一刻も早く電話を切りたいと急いでいたわけでもないんだけど。

死にたい理由と現実を知ってしまった璃雨に、最早亮也の事を受け入れる余裕は残っていなかった。

いや。初めからなかったんだ。

雨の日に傘もささずに打たれていた自分自身を思いだす。

最初から、逃げ場なんてどこにもなかった。

だから、ここまで追い込まれていたのに。

他人の傷まで受け入れられる心のスペースなんて、璃雨には残っていないんだ。
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