契約の恋愛
「入って下さい。」

紀琉にうながされて、私はしぶしぶ紀琉のマンションへと足を運んだ。

あの後、お互いずぶ濡れの二人は下がった体温に勝つことができず、くしゃみばかりしていた私を見て紀琉は言った。

「私のマンション近くですけど、来ますか?」

初めは当然のことながら、迷いなく強く首を横に振った。
いくら契約を結んだからといっても、いきなり部屋で二人きりはまずい。

それ以前に、この人は家族がいるのだろうか。

「い…いいです。くしゅん。本当に…結構です。」

鼻水をすすりながら、説得力のない声を出す。

寒い…。
紀琉は地面にほっぽいておいた傘を手に取り、頭上にあげる。

「来てください。何もしませんから。」

「……でも。」
…雪葉の事もあるし。

うつむき加減になってしまった私をなだめるかのように、紀琉の声がとても優しくなった。

「安心して下さい。契約の事についても話したいですし。ここは寒いし、格好も寒いです。用が終わったらすぐに送りますから。」

……で、今に至る。
雪葉、ごめん。

「はい。バスタオル。水滴の事は気にしなくていいですから、遠慮せずに上がってきて下さい。」

玄関で立っていた私の手元にのせられた、青いバスタオル。

…優しい。

この人、絶対モテる。
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