契約の恋愛
意をけっして、タンスを開ける。

…ありゃ。
な…何これ…。
私の表情がどんどん青ざめていく。

視線の先には、びっしりと綺麗に並べられている女物の下着やら、パジャマやらで埋めつくされている。

下の段も、案の定同じだった。

……。

「黒澤さん…。」

「はい?」

「…そういう趣味なんですか?もしかして。」

おそるおそる聞いてみる。顔を上げた紀琉は、キョトンとしている。

私は、これ…というように開いたタンスを指さした。
紀琉は、ぶふっと吹き出した。

「違いますよ。妹のものですよ。捨てる機会がなくてそのままにしておいたんです。まさか役にたつとは思ってなかったんですけど。」
クスクスと笑って、視線を落とす。

…あぁ。そういう事。

良かった。そういう趣味じゃなくて。

私は適当に服と下着を選んで、風呂場へと移動した。
服を脱ぎながら、静かにたずねる。

「…黒澤さんって…妹いたんですね。」

「意外ですか?」

「意外すぎます。」

静かな部屋の中は、キッチンから聞こえてくる蛇口の音と私が動く微かな音しか聞こえなかった。

雨はいつのまにか止んでいた。

「…妹さん。もうここには住んでいないんですね。」
「えぇ…。もう何年にもなります。璃雨さんは?」

「…え。」

突然ふられた家族の話題に、私は戸惑う。

というか、私が死にたいと思っていることも知っているのに、私の家族の事知らないなんて…おかしいよね。

でも、言わす理由も言わない理由もなかったので、しぶしぶ口を開く。

「いなくなりましたよ。」

少しぶっきらぼうに答えると、案の定紀琉の、え。という声が聞こえてきたので、私はトーンを上げた。

…全裸で。

「中1の夏に、突然いなくなっちゃったんです。それきり、会ってません。」

また案の定、紀琉のトーンの下がった、すいません…という声が聞こえてきたので

「気にしないでください。大丈夫ですから。」

と言って、風呂場へ入った。
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