契約の恋愛
私は、人に弱さを見せたことはない。

それゆえに、人の弱さに気付くこともない。

ずるい人間。

だから、みんな私を置いていってしまったのかな。

璃雨が璃雨しか見ないから。

「…お借りしました…。」

濡れた長い髪をバスタオルで拭きながら、風呂場から出る。

紀琉はびしょ濡れの服のまま、ベランダ付近で街を眺めていた。

物音にようやく気付き、ゆっくり振り返る。

「あぁ…。終わりましたか。」

感情がこもっていないような、紀琉の声に多少ビクつきながら、私はうなづいた。
長い髪がうっとうしい。
水滴がポタポタと落ちて、これじゃ何の為にシャワーを浴びたのか分からない。
いつもはまとめて、風呂場から出るのだが、不運なことにゴムを忘れた。

私はバスタオルで長い髪を上手くまとめて首をかしげた。

「あの…。」

「はい?」

「…ドライヤー…貸してくれませんか?髪が邪魔で。」
そういうと、紀琉は微かに微笑んで小さな部屋へ案内してくれた。

中を見てみると鏡やら香水やらがある。

「そこの引きだしにあります。自由に使って下さい。」
「……はい。」

「では、私もシャワー浴びてきます。でわ。」

パタン

……。
私は一人きりになった部屋の中を見舞わす。
< 23 / 236 >

この作品をシェア

pagetop