契約の恋愛
細い指に腕をつかまれ、ベランダに連れてこられる。
雨はすっかり止んで、中途半端な形の月が雲から顔をのぞかせている。

星もちらほらと輝いている。

ベランダから見る街の景色に目を奪われた。

黒澤さんの部屋は、階が高い。だから、よく街の景色が見渡せた。

ビルの灯りが、小さな点となってとても綺麗だった。
「……綺麗。」

思わず声が出てしまう。

人間が作ったものが、こんなにも綺麗な景色を作ることがあるなんて。

私はいつも下ばかり見てたから、見落としてたんだな。
この景色を。

「綺麗ですよね。」

「はい…。とても。」

私はこの時、自分の境遇や願い、契約の事など完全に頭から消し去っていた。

今あるものに、夢中になっていた。

星を見たのも、月を見たのも、景色を見下ろしたのもいつ以来だっけ…。

手すりに腕をかけ、呟くと黒澤さんは優しく答えてくれた。

「これから、見ていけばいいですよ。未来は残っています。」
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