契約の恋愛
重い空気にならないよう、多少気づかいながら私は全てを話した。

暗闇で、黒澤さんの表情は見えない。
彼はずっと黙っている。

私は言葉を続けた。

「その後、一人になった私は彼の高額の貯金と、生命保険金で何とか生きてきました。使いたくなかったけど…生きていく為にはどうしてもお金が必要で。
そして、情けない事に彼が死んだ後、初めて知ったんです。」

お葬式を開く為の準備で。
私は重大な事に気付いた。
「彼、両親も兄弟も、誰もいなかったんです。彼は一人ぼっちだったんです。」
自分の事で精一杯で、彼の事を私は何もしらなかったあんなにも、愛してもらっていたのに。

あんなにも、愛していたのに。

あんなにも、そばにいたのに。

私は、彼の事を何も知らなかった。

失った後、やっと、彼の全てを知った。
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