契約の恋愛
「あなたは…。」

全てを話し終えたあと、しばらくして彼が突然口を開いた。

私と"あの人"のアパートがもう目の前に見えていた。
「死ぬんですか?」

その言葉が、静かに宙を舞った。
あの日、生きる糧を失った私は逃げ出すことで、自分を保っていた。

失った未来に寄りかかって生きることなんて、私には出来なかった。

「……死にますよ。」

空を眺めながら、迷いの一つもなく私は呟いた。

「弱虫なんです、私。」

支えるものがなくなったら、一人で立てばいい。

それなのに、できなかった。
いっぺんにたくさんの物を失いすぎて、私は一人で立つことができなかった。

いつしか暗闇で一人きり。
雨に打たれ、死を待つ人間になった。

…誰も悪くない。
…弱虫な私が悪い。

アパートの前で、私と彼は黙ったまま立ち止まっていた。

「あなたにとって、死ぬ意味はあるんですか?」
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