契約の恋愛
くるっと彼は私に背中を向け、迷いもなく進んでいく。

その背中を静かに見つめる。

まさかその1年後、私を離さないと言った彼に、背中に置いていかれることになろうとは……。

今の私には想像もできなかった。

その時、私が何を思っているのかも。

「黒澤さんっ。」

私は遠ざかっていく背中に呼び掛けた。

闇に混じった彼はとても見にくい。

それでも、振り返ったという事は確かにわかった。

私は息をため、静寂を切り裂く。

「その固っくるしい敬語、なるべく止めて下さい!私達、恋人同士なんですからっ!!」

…人の事いえないけど。

すると、すぐに答えが返ってきた。

「分かりました。努力して…みます。璃雨さんも私の事、紀琉でいいですよ。恋人同士なんですからっ。」
いやいや、努力してみるって…おもっきし敬語だし。
クスリと笑う。

「分かったっ。紀琉、おやすみなさい。」

早速名前で呼んであげると彼は喜んだ…気がした。

「おやすみなさい。璃雨。」
あ…。璃雨って呼んでくれた。
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