契約の恋愛
本音かどうかも分からない言葉の中で、私はただつっ立っていた。

"離れない"という言葉が、どんな意味を持つのか、理解出来なかったからだ。

"離れない"と言って、"離れていく"というのが、私の人生の定義だったから。
それほど重大には受けとめなかった。

ただ…黒澤さんの言った、生きる意味を探すという言葉がいつまでも耳に残っていた。

ずっと求めてきたものを見つけられるかもしれないという漠然とした感情ではなかったけど、少し穏やかな気持ちになったのは確かだった。

一人じゃないとストレートに伝えてくれる言葉。

不安定な感情を落ち着かすのには、充分だった。

「…では、そろそろ帰りましょうか。」

言いたいことを言い切ったらしく、月に照らされた彼の表情は穏やかだった。

けれど、笑みが妙に寂しそうに見えた。

「いつまでもお引き止めしてしまってすいません。」
「…いえ…。」

そんな深々と謝られても。どっちが年上か分からなくなる。

「では、今日はここで失礼します。おやすみなさい。」
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