契約の恋愛
「璃雨は、優しいんですね。」

紀琉は前を見据えたまま、静かに口を開いた。

「え?」

「だって、気を付けてと言ってくれたじゃないですか。私の事なんてどうでもいいと思ってました。」

それは…。

「契約したから?」

首を傾げて、答えを待つ。
紀琉はクスクスと笑って、うなづいた。

「…えぇ。」

私は、はぁとため息をつく。
「あのね、璃雨にも思いやりっていう感情は確かにあるんだからね。紀琉は契約でも確かに恋人なんだし、璃雨を助けてくれた。どうでもいい存在ではないんだから。」

そう、自分にいい気かせるように話す。

…契約。

他人と他人をつなぐ鎖。
そして、時に残酷に人間を傷つける。

紀琉は静かにうなづいて、そうですね、と呟いた。

そして、璃雨の右腕をゆっくり優しく掴み、紀琉の膝の上に乗せた。

さっきまで優瑠に強く掴まれていた右腕の手首は、微かに赤くなっている。

熱が未だにこもっているのを、感じる。

紀琉は、細い指でその手首をゆっくりなでた。
< 90 / 236 >

この作品をシェア

pagetop