ずっと抱いてて
 と訊いてみた。


 許可が出ると分かって、だ。


 死ぬ直前まで付き合い続けていたパートナーを病院に呼ばないドクターはいない。


 多分、ボクのこの番号は愛海のケータイのアドレス帳を開いて知ったと思われる。


「今から参ります」


 ボクは二言三言ドクターと言い合った後、彼女の遺体が安置されている病院の住所を聞き、梅雨時で冷え込むからか、上に一枚羽織った。


 そして急いで部屋を出る。


 持っていくのは財布やケータイなどの貴重品類と、一応水分補給用の水だけだった。


 他に持参すべきものは何もない。


 そしてボクは病院へと自転車を走らせた。


 傘立てに傘を立てて……。


 降り出した雨は一向に止みそうにない。

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