ハッピーバースディ
足を広げ、腕をくみ、不動明王のような目をして。

タクの背中の向こうには、屋上へとつづく扉がある。
その向こうへ私は行こうとしているのに。

「何する気だ?」

間抜けとしか言いようのない質問に、怒りがこみあげてきた。

「何するって何よっ」

「だめだ」

「私の勝手でしょ」

タクの両腕が私の肩をつかみ、
間をおかず、抱きしめた。
なんだ、力あるじゃん、ぬくもりも……あるじゃん。

「いかせない」

「自分だけ、ずるい」

「アヤ」

タクが私の名を呼ぶ。
このひびきだ。このあたたかさだ。
タクの声。私の居場所。

突然、本当に突然に、
私はタクに抱きしめられていることを実感した。

それは、あるはずのないことであることも同時に。
いやだ、いやだ、離れないよ、タク。
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