盲目の天使
足早に、強い風が、二人の間をすり抜け、木々が次々と合唱する。
「どうしてそんな、悲しそうな顔をする?」
「え?そんなつもりは、ないのですが・・・」
戸惑った、リリティスの腰を引き寄せて、
カルレインは、壊れ物を扱うように、そっとリリティスを抱きしめた。
「どこへも、行くな」
すがるような、カルレインの声。
「私の行く場所は・・、カルレイン様の、腕の中しかありませんわ」
愛だけでは、どうにもならないことがある事を、リリティスは良く分かっていた。
自分の両親も、政略結婚には珍しく、愛し合っていた。
それでも、時に、どうにも抗えない強い風が、吹き付けることがある。
他人の思惑が渦巻く、政事の世界においては、特に。
不安げなカルレインの様子に、リリティスは、なんとかして安心を与えたかった。
カルレインの首を、ぎゅっと抱きしめると、ゆっくりとつま先で立ち上がる。
そのまま、カルレインの顔に、そっと唇を寄せた。