盲目の天使
リリティスは、はっとして身を乗り出したが、
カルレインは何も言わずに、そのまま部屋から出て行った。
入れ替わりに、数人の侍女が、食べ物や飲み物を持って、入って来る。
「さぁ、体に優しいものを用意いたしました。どうぞ召し上がってください」
年のせいもあり、牢獄生活は、心身をへとへとに疲れさせた。
しかし、それ以上に衰弱しているリリティスを見ると、
オルメは、やはり、先頭に立って、彼女の身の回りの世話をしなければ、と思う。
どうか、早く良くなってくださいませ。
オルメのすすめにも、リリティスは、すぐには食事に手をつけないでいた。
「あ、あの・・。
さっきの方は、なんだが具合が悪そうだったのですが、大丈夫でしょうか」
リリティスの“さっきの方”という言葉に、オルメは胸が痛んだ。
あんなにも、惹かれあった仲なのに。
カルレインの気持ちを思うと、胸が張り裂けそうだ。
自分の事を、忘れられたのも、もちろん辛い。
だが、それ以上に、仲むつまじい二人の様子を、見れないことが、オルメには辛かった。
どうやら自分は、若い二人が、ゆっくりと愛を育んでいることに、
心を、癒されていたらしい。
過ぎ去ってしまった、自分のほろ苦い思い出と、重ね合わせて。
オルメは、顔には出さず、たんたんと答えた。
「カルレイン様は、リリティス様の意識がない間、
ずっと、そばについていらっしゃいましたから、お疲れなのでしょう。
眠れば、大丈夫ですよ」
オルメの言葉に、リリティスは、胸が締め付けられるような気がした。