Bitter
目を覚ますと、体中が冷たくて、服はすごい量の汗で濡れていた。


息を切らして天井を見つめていると、ぬっと厚化粧の顔が視界に入ってきた。


『あ、気付いたわね。はい、熱計って。』


なんだあんたか、というような目で体温計を受け取ると、保健のおばちゃんの隣から夢と同じ声が聞こえた。



『起きたか。』



『!』



高瀬の顔を見ただけで涙腺が緩むのに気付き、
慌てて彼に背を向ける。

しばらくしてピピピと電子音が鳴った。

おばちゃんにそれを渡す。

『36.7度‥あれだけ吐いて平熱‥。』

『‥‥。』


『ねぇ香坂さん、あなたやっぱりストレス—‥』
『先生。』




おばちゃんにまた問いただされそうになったとき、彼がそれを制した。



『さっき佐野先生が呼んでいましたよ。職員室です。』


『え‥あぁ、はい、ありがとう。』



少しきまり悪そうに彼女は出ていった。


私は背を向けたまま遠ざかるスリッパの音を聞いていたが、視線を感じてちらりと彼を見ると、
案の定彼は、微動だにせずこちらを見つめていた。


こんなに長く彼の目にとらえられるのは、あの最後の屋上の日以来のはずだ。



その瞳が物語るものは、たくさんあるような、たった一つであるような、なんだか私がとらえるには大きくて複雑なものだった。



『香坂‥』


『‥‥。』


『きたんだな。』



『———‥‥。』


彼はそういうと軽く咳払いをして視線をそらした。


私はどうしていいかわからず、あなたに会いに行ったわけじゃない、など、すぐにわかる嘘をついた。



『じゃぁ何。』

『‥‥。』

『なんであんなところで倒れてんだよ。』

『‥‥っ。』

『何があった。』



私は言葉につまった。


出てくるのは涙ばかりで、


違う、泣きたいわけじゃない、と 頭をふった。




< 152 / 245 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop