キテレポ 08-09
No.5

手嶋強(23)テシマツヨシ

霊感強し。
現在、都内で一人暮らしをしているのだが、霊がさも当たり前のように(さながらドラえもんのように)押入れに住みついているので、事実上のルームシェアと言える。
その霊は(ドラえもんとは異なり)、引っ込み思案な性格で、押入れから一歩も出ようとしない。その為、生活に差し支える事も特になく(生活を助けてくれる事も特になく)、ただなんとなく、許容の範囲内に収まっている。
しかし、困るのは夏場である。東京の夏は異常なまでに湿度が高く、放っておくと押入れの中の布団がカビてしまう。それを防ぐ為、彼はいつも出掛けに押入れの襖を全開にしていくのだが、帰ってくると必ずピッチリ閉まっているのだ。引っ込み思案も度が過ぎると引きこもりになる。その典型と言えよう。
彼が目にする霊の中で最も興味深いのは、月1のペースで必ず顔を出すという50オーバーのおっさんの霊である。(最近は出てきても完全に無視しているらしいが…。) というのも、そのおっさんは毎回毎回コスチュームを変えて登場するのである。ある時には、カープのユニフォーム姿。またある時は、何故かシダックスのユニフォーム姿。つい先日は、まわしを巻いて先月より一回り太った状態で現れたと言う。その霊が何を狙ってちょくちょく顔を出すのかはよくわからないが、ウケを狙っている事はまず間違いないだろう。
手嶋強。この男について話したい事はまだまだ山ほどあるのだが、とてもじゃないが全ては書ききれない。したがって、最後にこの話をしてお別れしようと思う。
彼女の実家を訪れたある夏の日の事……意気揚々と玄関の扉を開けた彼は、ショックのあまりその場に立ち尽くし、気が付くと涙が溢れていたという。
一体何が起こったのか。
招き猫に露骨に嫌な顔をされたのである…。彼女の父親ならまだしも、招いてなんぼの招き猫にまで嫌われたのだ…。おそらく、誰かしらの感情がそういう形で表れたのだろう。
「霊能力があって得した人なんて、この人くらいなもんですよ。」
そう言って彼はテレビに映る江原さんに対し、露骨に嫌な顔をしてみせた。
おそらくその日、江原さんは何者かの強いオーラを感じたことだろう。
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