サラリーマン讃歌
俺は車を発進させながら、窓を開けると、もう一度空見子に向かって手を振った。

「愛してるよ、空見子」

「馬鹿っ」

一瞬恥ずかしそうにした空見子だったが、直ぐにあの笑顔を見せてくれた。

「行ってらっしゃっい、直哉」

もう一度そう言うと、空見子は車に進路を譲るように軽く避けると、俺に向かって手を振ってきた。

俺は軽くアクセルを踏み、ゆっくりと遠ざかって行くと、バックミラー越しに空見子を名残惜しそうに見続けた。

ミラー越しに見ている空見子は、俺の車が見えなくなるまで手を振り続けていた。




これが俺の最近の朝の風景だった。

俺達はあの公演の二ヶ月後、ひとつ屋根の下に暮らし始めた。

空見子と同棲を始めてから、はや十ヶ月が過ぎようとしていた。

結婚はまだしていなかったが、いずれするつもりではいた。

俺達の会社も当初の目標通り、去年の年末には法人化して、順調に成長していた。

今年の会社の目標は、新入社員を二人は入れ、戦力になるような社員に育ていくのが、三人で決めた目標だった。

俺達三人は相変わらず馬鹿な事を言い合いながらではあったが、日々精進し、その目標に向かって邁進していた。

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