サラリーマン讃歌
多分、社会を経験したことがない久保にとっては、俺は遣り手の営業マンに見えるのだろう。

新卒で入ってきたコイツの前では、自分の無気力さは一切見せないし、会社に希望を持って入ってきた人間に、それを見せる程俺も馬鹿ではない。

だから俺レベルの人間にでも魅力を感じるのだろう。俺くらいの営業マンは世の中にごまんといるのだ。

「どーもお。じゃ、サクくん後ろに乗って」

家の前で待っていた梓は、助手席側に回りこんでくると、俺に後部座席に乗るように指示をした。

「何、失礼な事言ってるんだよ!」

流石にこの言動には、梓に甘い久保も目を丸くした。

「いいから、後ろに乗って。その方がサクくんも嬉しいはずだから」

全く意に介した様子がない梓は急かすように言った。

(サクくんって……)

勝手にあだ名をつけられた俺は、苦笑しながら後部座席に移った。車に乗り込んできた梓は、俺達に目的地を告げた。

「遊園地だあ!?」

それを聞いた久保は素頓狂な声をあげた。

「なんでわざわざ桜井さんを誘って遊園地なんだよ?」

「いいから」

完全に梓のペースに巻き込まれている俺達は、それ以上何も言うことが出来なかった。

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