サラリーマン讃歌

~梓の策略~

結局、梓の思惑が解らぬまま水曜日、当日となった。久保に電話で訊いてみたものの、彼奴も何も聞かされていないらしい。

梓からの伝言は、「七時頃に電話をするからそれまでに用意を済ませといて」らしい。

(なんか最近年下に振り回されてんなあ)

情けなくもなるが、あまり気にはならなかった。素直に七時までに準備を整え、テレビをつけて、優雅にコーヒーを飲んでいた時、携帯が鳴った。

「今から車で迎えにいきますんで」

「何処にいくんだ?」

「まだ教えてくれないっす」

要領を得ないまま、久保との電話を切る。テレビを観るとちょうど天気予報がやっていた。今日は一日中晴れらしい。

程なくして、久保が着いた事を知らせるために電話を入れてきた。

「すいません。なんか梓の我儘に付き合わせてしまって」

俺が車の助手席に乗り込むと、申し訳なさそうに謝辞の言葉を述べてきた。

「別にいいよ。どうせ暇だし」

彼女の家は俺のマンションから車で二十分くらいの所らしい。久保が梓のこんな言動の原因は自分にあると、終始謝りっぱなしであった。

原因とは、彼の家でも言っていた梓の焼きもちのことだろう。

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