サラリーマン讃歌
そんな梓の態度などは一切目に入っていない俺は、空見子が近付いて来るにつれて、胸の中に別の生き物がいるかの様に、心臓が脈打ち始めた。

門の所まで空見子がやって来ると、梓は車を降りて彼方に向かって手を振った。梓に気付いた空見子が、車に近付いてきた。

「おっはよー。今日も相変わらずお綺麗ですねぇ、クミちゃんは」

「何バカ言ってんのよ。それで今日は何?何処にいくの?」

「遊園地ぃ」

「は?」

あの反応を見ると、空見子も何も聞かされていなかったらしい。

「今日は天気が良いから、遊園地日和だよねぇ」

「そんな日和があるの?」

呆れた顔で空見子が笑う。

「いいじゃん。行こうよ。ね?」

「なんか遊園地って、餓鬼みたいでカッコ悪いよ」

ぶっきらぼうに空見子が言った。

「そんな事ないよぉ。遊園地って言ったら、ダブルデートの定番じゃん」

「ダブルデート!?」

明らかに困惑している空見子をよそに、梓はなぜか嬉しそうだ。

「そ。ダブルデート」

もう一度梓はその言葉を繰り返すと、車の中に視線を向けてきた。

「あっ、そうだ。紹介するね。これが彼氏のタッちゃん」

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