Mr.キューピッド
「そもそも俺、滝本さんがいなくて寂しいとか思わないし。」
嘘泣きにイラつきながら、腕を組んで雪路に言う俺。
滝本さんがいないと少し『つまらない』だけであって、『寂しい』とまではこれっぽっちも思わない。
滝本さんの話す小話とか滝本さんと一緒にする卓上用ゲームだとか、凄く面白いからいないと調子が狂うんだよね。
「退屈ではあるけどさ……」
だからと言って雪路と話す気分ではないけれど。
敢えて言わないでいると、雪路は『ふーん……』とか言いながら考えるポーズをする。
「つまらないわねぇ……私、結構ナナトちゃんと滝本さんのこと期待していたのに。」
本当につまらなそうに溜め息を吐く雪路。
「……って、おい。何を勝手に期待してるのさ。」
それ以前の問題で、こいつは一体何に対して期待してるの?
「んふっ、まぁ内緒だけどねっ!」
雪路は怪しい笑みを浮かべながら、俺に向かってウインクを飛ばしてくる。
目からハートが飛んできた気がして、それを手で弾いてやった。
「……とにかく、」
一応俺は今日は仕事をしてきたワケで。ちょっとぐらいは疲れているんだ。
雪路を相手にしたせいで更に疲れるのは御免だから、ここは1つ……
「用がないなら帰ってください。」
丁重に帰ってもらおう。
俺は部屋の扉を指で差して、帰るように促した。