little
Ⅰ.シンフォニー

細い一本の田んぼ道。
高校へ登校する近道として、必ず通っていくその道の最後には、土手へと繋がる、緩やかな坂道がひっそりとそびえ立つ。それを視界に捉え、ペダルを漕ぐのを止め、あたしは自転車を押した。

肺いっぱいに酸素を吸い込みながら、軽く首を反って空を仰ぎ見る。坂道のゴールの先に、少しずつ広がっていく純蒼の空があたしは大好きだった。

学校に行くことで感じる批判的な気持ちと、不信感が空に吸い込まれていく感じがするからだ。優しく風が髪をさらいながら、頬を春の淡いパステルカラーに染めていく。


その瞬間、やっと呼吸を終えた。

それでも嫌なもんは嫌なんだ。学校に行かなくてもいいのなら、行きたくない。友達もいて、親友もいる、けれど。3年生になって、皆違うクラスになった。ひとりが好きな一人っ子のあたしでも、軽鬱になる。憂鬱だ、非情だ、拷問だ。


自転車を跨いで漕ぎだすまで、あと一寸―――…。

「片瀬春菜ちゃん、ですよね?」

透き通る青空をバックに、モカ色の髪をサラサラと揺らした少年が立っていた。自転車を押す手が止まり、自然と足も停止する。

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