レインブルー

長い間。


「これじゃあ意味ないじゃないか…」


沈黙を破ったのは黒井だ。


「何のために、俺は…。俺は何のために七瀬先生をーーー」

「クロ」


それまで黙っていた篠田が遮った。


「声が大きい」

「あ…」

「いつどこで誰が聞いてるか分からないんだから油断しないで」

「悪い…」


ふっと篠田が笑う気配がした。


「そういうあたしも油断してたけどね。ごめん」

「涼子」

「とにかく家に帰ったら話すから。ここじゃ場所が悪い」

「…分かった」


鍵が開く音がして、俺はとっさにドアの影に隠れる。

黒井と篠田はそれから言葉を交わすこともなく教室に戻っていった。

何かが不自然に感じたのは俺の単なる気のせいだろうか。


ーー俺は何のために七瀬先生を。


あれは、どういう意味なのか。

どうして黒井の口から七瀬先生の名前が出たのか、府に落ちないでいる。

黒井は一体、あの後何と言おうとしていたのだろうか。




授業の始まりを告げるチャイムがけたたましく鳴り響く。





いつまでもあの言葉だけが俺の胸の奥で引っかかっていた。







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