吸血鬼の花嫁
そこには、ルーが肩にユゼを背負うようにして立っていた。
ルーはひどく憔悴している。
「あいつら…、こいつが結界を張りかえる隙を狙って…」
はぁ、はぁ、と息も絶え絶えに説明しようとするルーを慌てて制した。
どう見てもそんな状況じゃない。
ルーの頬はざっくりと切れているのに、手当てをした様子がなかった。
服の状態を見ると、怪我はそれだけじゃないだろう。話よりも手当てが先だ。
「んだよ、あの黒いのは…」
忌ま忌ましそうにルーが舌打ちをする。
「……悪い、詳しいことは後で、説明する。
それよりも、花嫁。吸血鬼をどこでもいいから寝かせてやってくれないか…」
ルーが背負っていたユゼを私に渡した。
ユゼの体は意識がないのか、ぐったりとして重い。
私にユゼを預けると、ルーは片足を引きずりながら館の中へ向かった。
その足取りは今にも倒れそうに、ふらふらとしている。
「ルーは大丈夫なの?」
思わずその背へ叫ぶと、ルーは振り返り、疲れた顔をして小さく笑った。
「なんとか、歩くぐらいは。…手当は家妖精たちにしてもらうから、花嫁は吸血鬼を頼む」
「……分かったわ」
今、この館でユゼを運べるのは私しかいないのだ。
私は玄関から一番近い客室に、ユゼを引きずるようにして連れ込み、なんとかベットに寝かせた。
仰向けになったユゼから、マントを脱がせる。
上着とシャツは脇腹の辺りが大きく裂かれて血色に染まっていた。
見るからに痛ましい。
目を反らしたくなる気持ちを堪えて、シャツを脱がせた。
「酷い……」
ユゼの脇腹には大きくえぐったような醜い傷があった。血は何とか止まっているようである。
私は手当てのために急いで湯を沸かした。
手当てを終え、ユゼの顔や手を拭きながら、その様子を伺う。
ユゼは、一向に起きる気配がなかった。
普段ならすぐに消えてしまう小さな切り傷も、消えずに残っている。
脇腹の傷を最優先に治しているのかもしれない。
私はベットの隣の椅子に座り、ユゼが早く目を冷ましてくれるよう祈りながら、冷たいその手を握りしめた。