吸血鬼の花嫁


「……加減はどうだ」


ようやくユゼが重い口を開く。


「だ、だいじょうぶ、よ…」


私はどんな表情をすればいいのか分からず、顔を引き攣らせた。

とりあえず、ユゼの体調の方は良さそうだ。

腹の傷も快方に向かっているのだろう。でなければ、こんな風にふらふらしていたりしないはずだ。


再び、沈黙。


二人の間に気まずい空気が流れていた。


「その、謝って許して貰えるようなことではないが……すまなかった」


先に静寂を破ったのは、ユゼの謝罪の言葉だった。

言葉と共に、私へ向けて静かに頭を下げている。


「き、気にして、ないわ…」


考えるより先に口が動いていた。

それだけ言い残し、逃げるようにその場を後にする。

気にしてないなんて、嘘だ。

本当はどうしたらいいのか分からない。


分かるのは、ショックだったということだけだ。

ユゼに、謝られたことが。

確かに謝罪は間違いではないけど。

だけど、私が欲しかったのはそんな言葉ではない。

私が、欲しかったのは…。


食堂に私、ユゼ、ルーの三人が揃う。たまたまタイミングが合ってしまったのである。

場の空気は微妙で、一人空元気な明るさでルーが喋っていた。

しかし、私とユゼの間に流れる重い空気に耐え切れなくなったのか、だんだんと声が萎んでいく。

完全に口を閉じたルーは、深くため息をはいた。


「なんだかなー…」


私は、ルーに私とユゼの間に起きたことを詮索されないか、内心ひやひやしていた。

しかし、幸いなことにルーはまったく興味を示さず、茶を啜っている。杞憂に終わりそうだ。

ルーも黙ると、三人の間はいよいよ静かになった。

この空気をなんとかしなければと、私も思っている。

……本当は、ユゼが謝罪をして、私がそれを受け入れているのだから、こんな風に気まずくなる必要はないのだ。

頭では分かっているのに、私の胸にはわだかまりが残っている。

素直な気持ちでユゼに向き合えなかった。


「どうしたものか…」


時折、ルーの呟きが零れる。

ユゼは廊下での謝罪以上のことは、何も言わなかった。



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