吸血鬼の花嫁


結局私は二、三日寝込んでいた。

精神的なものの影響もあったのかもしれない。

だけど、泥のように眠ったせいか、少しずつ元に戻ってきていた。

ルーはしっかり休めと言ってくれたけど、いつまでもそれに甘えているわけにはいかない。

私は起き上がり、ルーの姿を探した。

その途中、廊下を雑巾掛けしている人影に出くわした。

人影は、どうやら私を見つけてくれた子供のようである。

私が、あっと声をあげると子供が驚いたように顔をあげた。

そして、私をじっと見つめる。


「あの…貴方は家妖精なの?」


子供は少し迷いを見せた後、こくりと頷いた。

それから何か言葉を発する。

しかし、その声は私な耳には届かなかった。

声が小さいのではなく、まったく聞こえてこない。

私が首を傾げると、家妖精は曖昧に微笑んだ。

よく見ると家妖精の顔付きは人の子供ほど幼くない。

体の大きさも一回り小さかった。

お伽話に出て来る森の小人のような姿である。

目の前の家妖精は、怪我をしているらしく、手首に包帯を巻いていた。

そういえば、黒刺が来た時に怪我をした家妖精がいたはずだ。

それがこの家妖精なのだろうか。

私が礼を言うと、家妖精はなぜだか悲しげな顔をした。

まるで、とてもよくないことが起きたような、そんな瞳である。


「もしかして、姿を見られたくないの?」


私の問いに、家妖精は少し悩んだ後、首を横に振って否定した。


「だったら…」


その先が思い付かない。

私の思考を遮るかのように、こつこつと廊下の向こうから靴音が響いた。

慣れた気配を感じる。

この場から今すぐ逃げ出してしまいたかった。

だが、体は固まったまま動かない。


薄闇の向こうから現れたのは、想像の通りの人物だった。


「ユゼ……」


ユゼは立ち止まり、沈黙したまま私と向かい合う。

眉間には皺が寄っており、何を言おうか迷っているようにも見えた。

足元の家妖精が、話の邪魔をしないよう、そっと立ち去る。

ユゼの顔をまともに見るのは、久々のことだ。

心の中で嬉しさや会いたくなさが複雑に入り交じった。



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