吸血鬼の花嫁


同じ思いを返さない…。

ルーの言葉を、私は心の中で繰り返す。


「多分、俺とミルフィリアは、未来永劫平行線のままだから」

「そんな」

「だから、お互い見ないふり。それが一番傷つかない」


諦めたような口調が哀しかった。

最初から全ての可能性を否定しているようで。


「どうして同じ傷ついたらいけないの?」


そこから生まれるものも、あるはずだ。

ふっと、ルーが遠くへ視線を送る。


「……吸血鬼が」


まるで、視線の先にミルフィリアがいて、言い聞かせているみたいだ。


「吸血鬼が、心に傷を負ったら、人の何倍も何十倍も何百倍もの時を苦しむことになるから」


だから、見ないふりをする。

言外にルーが言った。


「あいつが、他に誰かを好きになって、俺を忘れてくれるまで。

それが俺に出来る精一杯だ」

「それって優しさなのかしら」


傷つかないように、曖昧なままにしておくなんて、なんだかもやもやする。


「多分違う。酷い奴だから、俺」


静かに頭を振ったルーに、掛ける言葉が見つからない。

言いたいことがあるはずなのに、形にならなかった。


「花嫁、少し話が…」


ひょいとユゼが顔を覗かせる。

心当たりがない。

何の話だろうか。


「ルー、借りても大丈夫か」

「あぁ。話はもう済んだから」


手招きをするユゼの元へ私は向かった。

ルーを振り返ると、私の方を見ておらず、一人考え込んでいる。


「ルーはミルフィリアをどうしたいのかしら」

「大切に思っているはずだ」


ユゼと共に部屋を出た私は、知らず知らずのうちに声に出していたらしい。

思わぬところからの返答に、きゃっと短く悲鳴をあげた。

途端にユゼが傷ついたらような顔をする。


「ごめんなさい、独り言のつもりだったの。

でも、大切に思っているなら、どうして曖昧にしておくのかしら」


うーんと首を捻った私の頭をユゼの手が撫でた。


「…ユゼは分かる?」


助け舟を求めると、ユゼは意外にも小さく頷いた。


「全てが分かるわけではないが」



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