吸血鬼の花嫁


「で、このメモのものを買って来ればいいんだよな」

「そう。よろしくね」


ばさりと音をたててルーがマントを羽織る。

見送ったその背には渋々と書かれていた。

館の外には厚く雪が積もっていたが、降ってはいない。

これなら、さほど日数がかからず帰って来られるだろう。

帰ってくるまでに、急いでプレゼントを決めなければいらない。


「何がいいと思う?」


私はとりあえず、ユゼに意見を求めてみた。


「私に聞かれても」


返ってきた答えのはまったく参考にならない。

私はじとっとユゼを睨むように見た。


「遊んでいたんじゃなかったの」


無表情に近いユゼの顔が更に固まるのが面白い。

ユゼはしばらく言い訳を探していたようだったが、諦めるようなため息を吐いた。


「……残念ながら、貢がれる方だった」


なるほど、と私は納得する。

当てにならないはずだ。


「あのね、名前がいいんじゃないかと思って」


ならば、私の案をユゼに受けていれてもらうしかない。


「名前?」

「ルーっていうのは、呼び名であって名前ではないんでしょ」

「あぁ」


ルーとはない、という意味の古い言葉だ。

名前ではなく、仮初の呼び名。

そう、教えてもらった。


「貴方がくれた名前なら、きっとルーも喜ぶわ」


誰よりもユゼを尊敬しているルーは、きっとユゼが名をつけてくれるのを待っていたのだ。

だけど、ユゼは名を与えずルーと呼んだ。

だからルーはまだ、名無しのままでいる。


「……考えておこう」

「素敵な名前にしてね」


ユゼのセンスに期待していいのか迷うところだが、多分、大丈夫だろう。

プレゼントを貰ったルーはどんな顔をするか楽しみだ。

私は想像してふふと笑う。


不意に、ユゼの腕が後ろから私を抱きしめた。

最近、ユゼはよくこんな風に甘えたような仕種するようななった。


「もう」


小さな子供みたいだ。

人の何倍もの月日を生きているはずなのに。


私の苦笑を咎めるように、ユゼは私の体を腕の中へ閉じ込めていった。



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