吸血鬼の花嫁


「人、とは違う生き物という」


無感情な声は、けして人と違うことを誇っているわけではない。

むしろどこか寂しげな響きを含んでいて私の心を揺さぶった。


「私自身、自分がいつどこでどう生まれ落ちたのか分からない。気付いた時にはもう、私はこの世界に立っていた。

人と共に育てられた時期もあったが、十年も経たぬうちに、私も周りも私が異質な存在だと気付いた。

目や髪が青いというだけではなく、何より私は人と中身が違っていた。人が自分より弱い生き物だということを本能的に知っていたのだ。

人とは違う生き物だと自覚して以来、唯一私が近しいと感じたのは、現在黒刺と呼ばれている男ぐらいだ」


黒刺というのは、ハーゼオンの話の中に出て来た吸血鬼である。

そして、ハーゼオンの人生を狂わせた諸悪の根源の吸血鬼。

確か同盟には入っていない色のはずだ。同盟を組んでいるのは、青、赤、紫である。


「その人とは、友達なの?」

「違う。ただ、存在が近いというだけだ。あれとはもう百年単位で顔を合わせていない」


百年単位で物事を語る吸血鬼の時間感覚に軽く眩暈がしたが、とりあえず黒刺と友人ではなかったことに胸を撫で下ろした。

ハーゼオンの過去を聞いた後に黒刺がこの吸血鬼の友人だなんて明かされたくはない。


「じゃぁ、同盟を組んでいる最後の一人ってどんな吸血鬼なの?」


青髪の吸血鬼は答えず、じっとルーを見つめた。ルーの反応を待っているかのようだ。

なぜかルーが気まずそうに咳ばらいをする。


「紫焔は女だよ。永遠の聖少女。他の吸血鬼よりも血による魅了が強くて、眷属たちはみんなあいつに恋い焦がれる。

飽きっぽくて、すぐ寵愛の対象を変えるから、捨てられた吸血鬼たちはひどい苦しみを味わうことになる。とんでもなく趣味が悪い女。

赤とは違って、吸血鬼同士のいざこざに巻き込まれたくないから、俺たちと同盟を組んでるだけだ。

……あんたの妹をさらった吸血鬼も、紫焔の寵愛を失った奴だったらしい」

「……そう…なの…」


そう聞くと、同盟を組んでいるといっても、紫焔へあまりいい印象を抱けなかった。



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