吸血鬼の花嫁





翌朝起きて食堂へ行くと、ルーと吸血鬼が話し込んでいた。

私は二人の間に入るかどうか迷い、扉の向こうで逡巡する。

吸血鬼と話すルーの顔は至極嬉しそうだ。弟を取られたみたいで、少し悔しい。


「それで……、赤赦いわく…」


ふっとルーが顔をあげ、私を見つけた。


「はよ、花嫁。花嫁も早くこっちに来いよ」


手招きするルーの前には私へ背を向けた吸血鬼がいる。

どんな顔をして会えばいいのだろうか。


「ほら、早く来いって」

「ちょ、ちょっと待って、今行くから」


ルーに急かされ、私は渋々二人の元へ行った。

ここに座れと言われた、ルーの隣の席に座る。

青髪の吸血鬼は一度私に視線を向けたが、それ以上何の反応も示さなかった。

まるで、何もなかったかのようである。


「こうやって三人揃うのってなんかいいな」


しみじみと言うルーとは反対に、私の心は重かった。

反応をしないということは、きっと吸血鬼にとっては慣れた行為なのだ。

長く生きているのだから、キスの一つや二つ、たいしたことではないのかもしれない。

私にとっては初めてでも、吸血鬼にとってはただの食事なのだろう。

そう思うと、あまり良い感情が湧いて来なかった。

所詮、私は花嫁という名の贄なのだと。


「この時期にこいつが起きてることってあんまりねぇから、聞きたいことがあったら、聞いておいた方がいい」


聞きたいこと…。

聞きたいことがあるほど、目の前の男のことをよく知らなかった。


「……体調は、大丈夫なの?」


昨日、あんなにだるそうだったのに、今は平然としている。


「しばらくは」


返って来た答えは簡潔だった。それ以上会話が続くことなく途切れる。


「ど、どうして髪が青いの?」


仕方ないので、別の質問をしてみることにした。

気にはなっていたが、聞いてみたいというほどでもない質問だったが。


「生れつきだ。私にも理由は分からん。目印のようなものだと思っている」

「目印ってなんの…?」


吸血鬼が顔を僅かに揺らした。青く長い髪が肩を滑っていく。



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