【完】約束=願い事
「……ま?…夢瞳様?」
「…え?」
必死でポケットを探るわたしは、呼ばれていたことも車が止まっていたことにも気付いてなかった。
顔を上げると、
見慣れた施設があった。
15分くらいはかかったのだろうか?
ほんの一瞬に感じられた。
運転を終えて、後部座席まで回り込んでドアを開ける、真田さん。
「真田さん……」
「夢瞳様、お降りください」
丁寧な口調は、出会った時と変わらない。
けど、状況が変わって執事然とした彼は妙にしっくりきた。
もちろん舞台俳優を目指す大学生なんかじゃない。
社長秘書だということだ。
「ねぇ、真田さんも知っていたの?」
わたしが聞くと、少し困った顔をした。
そうだよね…
知らないのはわたしだけじゃん。
馬鹿になった気分。
「どうか……」
躊躇いがちに真田さんが言った。
「どうか、悪く思わないでください…」
複雑な気持ちで、返す言葉が何も浮かばなった。
そんなの……
無理だよ。
わたしは惨めな気持ちで、見つけたカードを掴みながら無言で車を後にした。