星の降る線路の上で
「……」
まるで異国の言葉を聞かされたような表情を浮かべる少女に、とても場違いな事を口走ってしまったと後悔するが、もうその言葉を無かった事に出来そうにない…
三崎は覚悟を決めると、恥ずかしさを隠すように矢継ぎ早に言葉を続ける。 
「小学生の時、感想文の宿題があって、何気に図書室に行って一冊の本を借りたんだ。キャプテン・フューチャーって言うSF小説なんだけど…これが面白くて…借りてきたその日に一気に最後まで読んだ。寝るのも忘れてね…」
次の日、寝坊で起きれなくて学校に遅刻した事は伏せつつ、エドモンド・ハミルトンが描いたスペース・オペラの説明を始めた。
地球が危機に晒されると、いつも月面から愛機コメット号でやってくるキャプテン・フューチャー…
人工人間、ロボット、生きている脳…おかしな仲間達と共に悪と闘い、宇宙狭しと冒険を繰り広げる雄姿を、身ぶり手ぶりを交えて熱く語った。
その面白さがどこまで彼女に伝わっているかは疑問だったが、その情熱だけは伝わっているのか…少年のように瞳を輝かす三崎の横顔を、少女は何も言わずただ黙って見つめていた…
「本を読んでいる時は、いつも彼等の隣にいて一緒に冒険をしていた。胸がときめいた、心が震えた…こんなに素晴らしい世界があるなんて夢にも思わなかった。だから夢中になった、星の世界に…」
大切な思い出を噛みしめるように深く目を閉じると三崎は続ける。
「感想文を書く代わりに、図書室にあるSF文庫の図書カードに全部自分の名前を書き込んだ…それでも飽き足らずに、小遣いとお年玉全てつぎ込んで、SFと名のつく本を買いあさった…将来、自分の名前が書かれた本が店頭に並ぶんだって、信じて疑わなかった…」
三崎はそこで言葉を区切り唇を噛みしめると、溜息と共に吐きだした。
「…でも、俺の名前が入った本は一冊も出版されていない。今の俺の仕事は、そんなものから何万光年もかけ離れたただの会社員だ。毎日モニターに向かって一日中数字を入力している。それが現実…夢の果てさ」
一斉に照明が落とされたスタジアムでゲームセットを宣告されたように、寂しげに笑って見せた。 
「あの頃の俺が見たら、きっと怒るだろうな…」
自嘲気味に投げかけた三崎の言葉に、それまで沈黙を続けていた璃子が口を開いた。
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