【短編】運命の人
「………?」
奈津はきょとんとした顔で僕を見た。
「バッグを落としたとき、一緒に拾ってくれて……」
「………?」
困惑したような様子の奈津は、言葉を一言も発することなく、そのまま無言で立ち去って行った。
きっと、奈津にとっては、記憶にすら残らない出来事だったんだ。
だけど、にこりと微笑んでくれた奈津の存在は、僕のなかで次第に大きくなってきて。
僕は、奈津と親しくなるきっかけを、何日も何日も考えたんだ。