Heaven
突然何を言い出すのかと思ったら…
わけの分からない言葉だ。
俺は口をポカーンと開けて、父さんを凝視する。父さんの手は何種類かのワックスで溢れていた。
『は…?』
『いいから鏡の前に行け!』
父さんは顎を使い、俺に合図をする。
俺は渋々とそれに従い、鏡の前へと行った。
グレー色の縁の鏡に映し出されたのは、少し不機嫌な俺と、笑顔の父さん。
『なにすんの?』
『いいから待ってな?』
父さんはワックスを床に置き、蓋を開ける。
そして手に適量つけ、俺の髪の毛に馴染ませていく。
いい匂いのワックス。
細い父さんの指が、俺の頭をくしゃっと触る。
鏡越しで見る父さんの顔が真剣で、文句ひとつ言えないでいた。
『入学式なんだから、気合い入れないとな。折角、昨日染めてやったんだから』
『う、うん』