わたしの飼いもの
―第1章― バイトの娘

<お酒>

「女と女のキスってどう思いますか?」




(どうしよう・・・)

答えに困った。




「楓ちゃん・・・」

少し酔っている私が精一杯発した言葉はそれだけだった。




(どうしよう・・・、どうしよう・・・)

大人として、動揺している事だけは悟られたくなかった。




「絵梨さん、あたし酔ってないよ・・・」

隣に座る楓は、多分、私の目を見つめているだろう。




私は楓の方を向けない。




「ふふふ・・・」

私は、大人らしい、少し余裕のある表情を作って、笑ってみた。




頭の中はパニックだ。




(ボーナスで大画面のテレビなんて買うんじゃなかった・・・)

テレビは、洋画のキスシーンだ。




(中学生にカルーア・ミルクなんて作るんじゃなかった・・・)

絵梨は、『お酒が作れる大人』を演じたかった。




(ウチに止めるんじゃなかった・・・)

「泊まりにおいで」と誘ったのは、絵梨の方だった。




いろいろと頭に浮かぶが、この場を回避する理由には繋がりそうにない。




(まぁ、仕方ないか・・・)

覚悟を決めた。




絵梨は、長い髪の右側だけを耳にかけて、楓のキスを迎え入れる準備をした。
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