√番外編作品集
次のライブハウスへと足を運ぼうとすると、ケータイの着信ランプが暗闇で輝いた。

敦子はケータイを開くと、すぐ会話を始めた。

「千恵? そっちはどう?」

「うぅん、いない。でも潤が来たことを覚えてる人はいたよ。2時過ぎに来たって」

スピーカーから千恵の声が漏れてくるのを俊彦は黙って聞く。

「2時? もう…夜の10時になるよ? それから8時間も経ってる!」

「霧島さんに何度か潤の家やケータイにかけてもらってるけど、やっぱり出ないし……まだ、北宮にはいるはずなんだよ」

「どうしよう千恵、潤に何かあったら」

鼻をすすりながら、敦子はケータイにすがるように会話を続けた。

「潤が死んだりしたら、私、生きていられない。私、潤に言わなくちゃいけないことだって、してあげたいことだってまだまだいっぱいある」

霧島を殴り飛ばした勢いはどこへ行ったのか

敦子は歩く足を止めて、ついには涙を落としはじめた。

「どうしよう、数学の宿題誰に教えてもらえばいいかとか、そんなレベルの問題じゃない。心臓止まるよ、止まっちゃうよぉ……」

「敦子……泣かないで、大丈夫だよがんばろうよ」

俊彦はチラリと敦子へ視線を投げる。

気が強そうに見えてはいたが……

……好きな相手がこんな状況下で行方不明になれば心配にもなるよな。

疲労や不安が積み重なり、爆発したかのように敦子は泣きながら会話を続けていた。

話をさせているのが、拷問のように思えて俊彦は声をかけて、肩に手を置く。

敦子はごめんなさい、ととぎれとぎれに言って涙を拭った。

話をしていたケータイを借り、代わりに俊彦が通話を担当した。

「飯島は俺が見てるから見つかったらまた連絡くれ、今のところ俺たちに異常はない。黒沢もまだ……」

「分かりました……霧島さんがちょっと無理してるみたいですけど、こっちもがんばります」

頼む、と言って通話を終了すると、ケータイを敦子へ返した。
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