√番外編作品集
驚いたけど、俺は顔をあげずに手だけ伸ばして早苗さんの手を掴んだ。

雨のように、たまに手に雫が落ちてきたけど

それでも俺は黙っていた。

早苗さんも、何かがあったんだな。

それなのに真剣に俺の話を聞いてくれた。

「早苗さん」

何があっても、俺は早苗さんの泣き顔だけは見ないようにしたい。

俺達は似たもの同士

お互いの傷をなめ合うようになったら、終わりだから。

俺と早苗さんは、小指の爪ほどの接点で繋がれた

そんな関係のままが一番なのだから。


俺は、気の強くて綺麗な早苗さんだけを知っていればいい。

早苗さんは、どうしようもない甘ちゃん高校生河田康平を知っていればいい。

その線を越えないようにするのが、俺が今できるお返しのような気がした。

「ねー早苗さん」

「何?」

「俺がもう5つくらい早く生まれてて、もうちょっとイイ男だったらどうかな」

「やめてよ。同い年の康平なんて考えられない」

「俺も同い年の早苗さんなんて考えられないな~。俺はずっと早苗さんに甘えてたい。だから俺はこのままで早苗さんの傍いるから」

捕まえた早苗さんの細い指が、ぎゅっと俺の手に絡みつく。

いつもなら長くてキラキラしている早苗さんの指は今日はとても質素だった。

気付けばよかった。

こんな時間に街中に早苗さんがいること、いつもの綺麗な爪じゃないこと。

小指の爪ほどしかないって言われたけど

でもその接点を俺自身

なによりも頼りにしていたこと。
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