ことばのスケッチ
「それでは、今日のような貴方の美しさがなくなってしまいます」
「無礼講の限界を見出すにはどうすればよいのでしょう」と、その女性はいささか真剣になってきた。
「それは、相手との心の駆引きですよ」
「ハイ、解るような気がします」
「今日のように、礼儀の世界を少しばかり越えてみてはどうでしょう」
「あら、私、礼儀の世界を越えたかしら」
「随分越えていますよ、お互いにナアナアの世界になってるし、貴方はとても美しいのが何よりの証拠です」
「まあ、何も気がつかなかったわ」と、その女性は例の涼しげな笑顔を見せた。
「お互いに無礼講の世界に浸っていますから、ごく自然に無礼講になっているのです」と、互いの間の無礼講の限界をわきまえた心の駆引きがあることを伝える。
「別に難しいことではないんですね」と、その女性は何時の間にか客に対する言葉遣いが無くなって、普通の言葉遣いになっていた。
「そうです、自然の内に互いに細やかな神経を使っているからです」
「そういえば、こんなことを言っては失礼になるんじゃないか、なんてことは意識していませんね」
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