ことばのスケッチ
第五話 固定観念
 白髪頭の私は、実際の歳よりも十歳ぐらい多く見られる。現役時代は、駅まで歩いて十五分ほどであったが、定年退職をして腰痛を患っている今は、五メートルほど歩いては一休みし、五十分ほどかかる。今日は友達と会うために久しぶりに東京まで出かけることにした。駅までは横断歩道を渡る信号が二つある。現役時代は、赤に変わる寸前でも、駆け足でその横断歩道を渡ったものだが、今は青信号でもその信号を一回見送り、次の青信号で渡るようにしている。二つ目の信号を渡って、三メートルほど歩いた所に、いつも休む石があり、そこに腰を降ろしていた。結構な年配の人や若い人が、足早に私の前を通り過ぎて行く。その人たちを見て羨ましく思っていた。そこえ私の顔を覗き込むようにして、不意に声をかけられた。

< 114 / 177 >

この作品をシェア

pagetop