ことばのスケッチ
「有難う」
「気をつけてね、おじいちゃん」
 私はホームへ上がる階段を登る前に、改札口の方を振り向いた。彼女は手を振ってくれた。やっとの思いで、階段を登る。ホームでは次ぎの電車に乗る人の列が既にできていた。電車がホームに入る前に私の後ろに五人ほど並んだ。この駅は、始発駅の次の駅である。一つの座席を三人ほどで争う空席がある。やがて電車が入りドアが開く。前に並んでいた人は素早く座席を確保する。後の人は、ゆっくりとしている私を追い越して車内になだれ込んだ。私はやっと、一つの吊革を確保した。そして、さっきの少女のことを思い出していた。《彼女が居たら、きっと座席を確保してくれただろうにな》私は、少し腰をかがめて吊革で体重を支えるようにして掴まっていた。
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