ことばのスケッチ
《あの少女が居てくれたらなぁ、ドアが開くと同時に、素早く座席を確保してくれたのに。きっとそうしてくれただろうなぁ、おじいちゃんこっちだよってね》そう思って、座っている人の顔をしみじみと眺めた。そしてふと思った。
《待てよ、ドアが開いて私を無視したということは、周りの若者と同じに扱ってくれたんだ。老人扱いじゃなくってね。なるほどそうか、私もまだ若者なんだ。そう思えば気も休まる。まさか、年寄に親切にするということは、忘れてはいまい》
 この時間帯は、小学生や中学生、それに家族連れが多い。サラリーマンの人も居る。多分営業マンだろう。髪の毛を赤く染めた若いカップルも居る。たまに私のようなリタイヤ組みも居る。電車はトンネルに入った。窓ガラスに自分の顔が見える。腰をかがめ、吊革にぶら下がるように自分の体を預けて居る姿はいかにも哀れである。十歳多く見られるのも頷ける。哀れみを乞うているようにも見える。
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