ことばのスケッチ
最近は両腕で体を持ち上げるのも楽になった。気持ちの上でも余裕が出てきた。辺りを見回したら、いろんなものが目に入る。あれは一体なんだろう。触ってみたいと思っても、体が思うように前に進まない。両腕で体を持ち上げると同時に、体を芋虫のようにくねらせてみた。
「ママ、見て」と婆が言う。
「まぁ、芋虫みたい」
「そろそろ目が離せないわね」
《これは一体なんだろう!》
「あらあら、スリッパを触ってるわ、バッチい」
《やっとの思いで触ったのに!》
「あらあら、今度は新聞」
「ママ、床の上に何も置けないわね」
急に視界からいろんなものが消えた。どうしたんだろう。あ!あれは何だろう?消えない内に早く行かなければ!何だこの長いものは?口に入れても何の味も匂いもしない。
「あらあら、電気のコードをなめてるわ」
「お母さん、篭の中に玩具があるんだけど」
「これがいいかな!」
《なんだこれ!》
《味も匂いもしない!》
「あらあら、口に入れて」
 私の手が激しく揺さぶられた。ガラガラ、何だこの音は?はじめて聞く音だ!もう一度口に入れて確かめてみるか!
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