ことばのスケッチ
「まあ!熊さんも駄目」
 こう私のやることを邪魔されると困るんだ。私の唯一の動物的な感覚で、味と匂いでなんだろうと確認しようにも確認のしようがない。私の芋虫移動の速度がだんだん速くなるにつれて、私の視界に入るものが少なくなった。また、視界に入るものは凡そ確認済みである。つまらない気持ちが打ち勝って、私の頭の上にあるものに手を掛けてぐいっと体を持ち上げた。そこには別の世界が開け、未確認の物体が沢山ある。
「ママ見て、立ったわよ!」
「まぁ!本当だ!」
《これなんだろう?》
「湯のみをひっくり返すと熱いあつい」
《これなんだろう?》
「あらあら、箸を持つと眼を突っつくわよ」
《これなんだろう?》
「あらあら、味噌汁をこぼすと熱いあつい」
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